この記事では、キッチンカーにおけるガスの入手方法について徹底解説しています。
2022年7月15日に法改正があり、キッチンカーで(つまり遠方で)ガスを使用するためには「質量販売緊急時対応講習」と呼ばれるガス講習会を受講することがほぼ必須事項となりました。
どのような方法で受講するのか、そもそもどんな講習会なのか、最新の情報をお伝えしていきますので是非最後まで読み込んでみてください。
キッチンカー(移動販売車)で使うガスボンベの基礎知識
キッチンカーで使うのはLPガス(プロパンガス)
「キッチンカーのガスって都市ガス使ってるんですか?」
と質問される方もいるようですが、移動式のキッチンカーで使っているのは都市ガスではなくプロパンガス(LPガス)です。
\調整器(安全装置)も必須/
このような専用容器↑にプロパンガスを入れた状態で、キッチンカーに搭載されています。
ガスボンベ(容器)はネット通販でも簡単に手に入りますが、使用するためには容器にガスを充填してくれるガス会社を探して契約する必要があります。
※充填(じゅうてん)=ガスを詰めてくれる作業のこと
LPガス(プロパンガス)の大きさと容量|おススメは8Kg容器
ガスボンベの大きさと容量は下記の通り各種販売されています。
ガスボンベの大きさ | LPガスの容量 |
---|---|
2Kg容器 | 4.8L |
5Kg容器 | 12L |
8Kg容器 | 19L |
10Kg容器 | 24L |
一般車両での積載移動は10kg容器2本以下と規定されてはいるものの、10kg容器に満タンのガスを充填した場合、重さはかなりのものになってしまいます。
10Kgボンベは容器が大きいため、狭いキッチンカーではかえって邪魔になることもあります。
よってキッチンカー内で使用・設置する場合、個人的には8Kg容器までがおススメです。
仮に8kg容器3本設置する場合は、下記のような警戒表(ステッカー)をキッチンカーの車両前後に取り付けましょう。
プロパンガス(LPガス)の特徴とメリット
プロパンガスのメリットは下記の2つあります。
・持ち運びできて屋外でも使える
・高火力で短時間調理が可能
高火力でおいしくふっくら仕上がり、おいしい料理ができるという点が大きなメリットです。
さらにキッチンカーでは電源の確保が大変な現場もあるため、ガスを使った調理を前提に考えるのが基本です。
デメリット|キッチンカーにはガスボンベを売ってくれない
いっぽうデメリットとしては、キッチンカーやキャンピングカーなど、遠方で使用する消費者への販売を拒否されるケースがあるという点です(理由は後述)。
ガスを詰めてくれるガス屋さんが見つけられず、なかなか開業できないオーナーさんも過去にいらっしゃいました。
キッチンカーを製作した後で気づいても遅いです。
契約してくれるガス会社を見つけてからキッチンカー製作に着手しましょう。
ガスの契約・販売を断るガス会社が多発している理由
ではなぜキッチンカー(キャンピングカーも含む)相手となると販売拒否されるのでしょうか。
その理由は、経産省からの通達により「ガス事故発生の際にはガス販売会社から30分以内に現場に到着できること」が指導されていたからなのです。
このルールは「30分ルール」と呼ばれています。
遠く離れたキッチンカーの出店場所でガス事故が起こってもガス屋さんは対応できないため、キッチンカー相手のガス販売は敬遠されているというわけですね。
※一般家庭や企業であればなんの問題もなく、これまで通り契約できるのでご安心ください。
ガスボンベ購入の法律と資格(質量販売緊急時対応講習)の取り方
このような経緯でキッチンカー開業に必要なガスが手に入りにくい状態が続いていたわけですが、実は2022年7月15日に法改正が行なわれ、ルールが緩和されました。
その見直しの内容とは、(ガス会社から)30分以上離れた場所でガスを使う契約者に「質量販売緊急時対応講習」を受けてもらうこと。
この講習を受講し、修了証↓を持っている場合に限り30分ルールが免除されることになったわけです。
繰り返しになりますが、30分ルールや講習の受講は一般家庭には無関係です。今まで通り契約・使用できます。
「質量販売緊急時対応講習」とは
「質量販売緊急時対応講習」とは、つぎの2つの目的のために行われる講習のこと。
・安全にガスを使用するための知識や技量を習得する
・緊急時に必要な措置を自ら行うための知識、技量を習得する
この2つの目的のうち、注目すべきは「緊急時に必要な措置を自ら行う」という点です。
緊急時とは「ガス事故が発生した時」のことですね。
事故発生時の対応まで求められるとプレッシャーに感じる方もいるかもしれませんが、自他ともに安心して使うための講習です。
ガス屋さんから講習について案内があるはずですので、しっかり学んでから開業しましょう。
「緊急時に必要な措置」の具体的な内容とは?
「緊急時に必要な措置」として具体的に実施すべきとされている中身は下記の通りです。
興味のある方は読んでみてください。(講習の際にも説明があるので覚えなくてOK)
①ただちに路肩に車両を止めて後続車や付近の人に、「赤い旗」を振り「メガホン」で大声をだして危険を伝えること。
②夜間は「懐中電灯」で照らしながら「ガスの漏洩検知剤」でガス漏れ箇所を調べること。
③配管が緩んでいる場合は「スパナ」で締めてガス漏れを止めること。
④余裕ない場合は「ロープ(15mを2巻)」を張り、人の侵入を防ぐこと。
⑤火が出ている場合は「消火器」にて消火。消防に通報すること。
⑥「イエローカード」を携帯し、緊急時の連絡先や対処法についての備えとすること。
「」内の太字の物品は、緊急時の対応に必要な物品として記載されているもの。
キッチンカーへの搭載が必要とされています。
なお「イエローカード」は下記の画像を参照してください。
「質量販売緊急時対応講習」を受講する方法|申込みの流れと料金
「質量販売緊急時対応講習」はガス会社にて受講するものですが、受講できるガス会社は本記事執筆時点(2024年1月10日)で下記の2件しかありません。
・ELG(イーエルジー)株式会社
・公益社団法人 千葉県LPガス協会
しかしご安心ください。どちらもオンライン(ZOOM)にて受講可能ですので、全国どこにお住まいでも講習に参加することができます。
講習受講料は千葉県LPガス協会の場合、12:30~17:00(休憩及び修了確認調査を含む)の受講料とテキスト代を含めて6,000円(税込)です。
どちらで受けても料金・内容に大差はありません。
受講から修了証取得までの流れや日程は、公益社団法人 千葉県LPガス協会のホームページで詳しく解説されているのでご確認ください。
「質量販売緊急時対応講習」の修了証の有効期限は5年間
また受け取った修了証の有効期限は5年間と定められています。
5年経過するタイミングで受講料を支払い、再受講の必要がある点も覚えておきましょう。
今だにガスの販売を拒否される可能性アリ?!
講習の受講によって30分ルールが免除されたわけですが、今でもキッチンカー相手の販売を嫌がるガス屋さんはあります。
というのもガス事故が起こった場合、結局のところ販売したガス会社にも調査が入るからです。
キッチンカー相手には慎重にならざるを得ないガス会社の事情もあるということです。
また「質量販売緊急時対応講習」の受講は、あくまで30分ルールを免除するためのもの。
「修了証を持っているから絶対にガス契約できる」というものではないという点も覚えておいてください。
キッチンカーのプロパンガスボンベの消防法の決まりは?
またキッチンカーには消防法によって10型の消火器の設置が義務付けられています。
放射時間が約15秒、3Kg~3.5Kgの薬剤重量を持つ10型消火器と種類が決まっています。必ず設置しましょう。
消防法上のキッチンカーの届け出義務はありません。届け出が必要になるのは300kg以上のガスを扱う場合のみです。
キッチンカーのガスボンベの契約・充填・定期検査の流れ
では具体的にどのような方法でガス会社と契約していけばいいのか、その後のメンテナンスまで含めて一連の流れを下記の5つのステップで見ていきましょう。
①契約してくれるガス会社を探す
②「質量販売緊急時対応講習」を受講する
③ガス会社と契約する
④必要に応じてボンベに充填してもらう
⑤プロパンガスボンベの定期検査(耐圧検査)を受ける
①契約してくれるガス会社を探す
かならずキッチンカー製作の前にリサーチを開始しましょう。
充填は自宅近くが一番ラク!まずは自宅周辺のガス会社をリサーチします。
見つからなければキッチンカー業者に情報をもらったり、ネット検索で探してみてください。
有料でボンベの集配をしてくれるガス会社なら、遠方でも契約を考えていいでしょう。
②「質量販売緊急時対応講習」を受講する
契約できるガス会社が見つかったら、講習を受講しましょう。
営業初日に間に合うよう、早めの受講がおススメです。
③ガス会社と契約する
営業初日に間に合うように、ガス会社と契約します。
契約の日までに、購入するガスボンベの容量と本数を決めておくと話がスムーズに運びますね。
ガスホースやボンベは自分で買いそろえてもOKですが、持ち込みボンベの場合は別途登録料がかかる場合もあるようなのでご注意ください。
またガス会社の事務所と充填場所は異なる場合があります。
充填場所や方法についても契約時に確認しておきましょう。
④必要に応じてボンベに充填してもらう
営業開始で残量が減ってきたら、必要に応じてガスを充填してもらいましょう。
容器が空になっていなくても充填はできます。充填した分しか請求されませんのでご安心ください。
ガスの残量は経験で大体分かるようになってきますが、初めのうちは「ボンベの重さ」を体重計などで量って確認したほうがいいかもしれません。
「営業中にガス切れになって、販売できなくなった・・・。」というのはキッチンカーあるあるです。ご注意ください。
⑤プロパンガスボンベの定期検査(耐圧検査)を受ける
ガスボンベ購入後は、3年から5年ごとの定期検査として「耐圧検査」を受ける必要があります。
検査の結果ガスボンベに問題なければ継続して使用できますが、問題がある場合はボンベの買い替えが必要です。
耐圧検査の時期はガス会社から事前に通知されるので、時期を覚えておく必要はありません。
検査を受けるには6000円程度の検査料がかかることもお忘れなく。
キッチンカーでのガス料金の目安と相場
次にプロパンガスボンベのガス充填費用について見ていきましょう。
ガス料金の一般的な相場としては1kgあたり440~900円程度とされていますが、契約する会社によって設定金額は異なります。
各自ガス会社に確認しましょう。必要なら相見積もりを取ってください。
ここでは本田燃料電気さまの料金設定をもとに、下記の通りご紹介しますので参考にしてみてください。
※別料金で配送もされているようです!北海道で開業予定の方は是非問い合わせてみてください。
ガスボンベの容量 | 充填料金 |
---|---|
2kg | 2,000円 |
5kg | 3,000円 |
8kg | 4,000円 |
10kg | 5,000円 |
なお3~5年ごとに行う耐圧検査の料金は6,000円と提示されていますので、併せて参考にしてください。
キッチンカーでガスボンベの使用量と目安時間
キッチンカーの調理でどのくらいガスが使えるのか分からないことには、ガスボンベの大きさを選ぶことができません。
そこでおおよその連続使用時間について、ガスボンベの大きさ別に一覧にしています。
下記を参考に、購入するボンベの大きさと本数を考えてみてください。
調理機器 | 基準使用量 | 5Kgボンベ | 8Kgボンベ | 10Kgボンベ |
---|---|---|---|---|
二重コンロ | 0.5kg/1時間 | 10時間 | 16時間 | 20時間 |
たこ焼き機(45個用) | 0.18kg/1時間 | 27.8時間 | 44.4時間 | 55.5時間 |
鉄板焼き(600mm×550mm) | 0.47kg/1時間 | 10.6時間 | 17時間 | 21.3時間 |
クレープ焼き機(直径40㎝) | 0.37kg/1時間 | 13.5時間 | 21.6時間 | 27時間 |
フライヤー(油量12L) | 0.54kg/1時間 | 9.3時間 | 14.8時間 | 18.5時間 |
たい焼き機(12個用) | 0.76kg/1時間 | 6.6時間 | 10.5時間 | 13.2時間 |
※調理機器とその基準使用量は、本田燃料電気さまのHPを参照。
キッチンカーのガス爆発!事故の事例4つ
では次に、キッチンカー(移動販売)の営業中に発生したガス事故の事例を4つご紹介しておきます。
この事例をご覧いただければ、後でご説明する「ガスボンベ設置の注意事項」を守ることがいかに大切なのか、ご理解いただけると思います。
事例①|調整器の接続不良
ガス調整器を新しいボンベに取付した際、締め付け不⾜によりガス漏れが発⽣。フライヤー点⽕時に漏れたガスに引⽕し⽕傷。
https://www.safetykyushu.meti.go.jp/lpgas/jiko/2022jikosokuhou0112.pdf
事例②|風で炎が立ち消え
キッチンカーに防風対策がなかったため、風の影響で業務用グリドルの種火
が消えたことによりガスが漏えいし、別のコンロの火が引火した。
https://www.kan-eki.jp/pdf/kensyukai/20151113-4.pdf
事例③|転倒防止の不備
露店で開店準備のため業務用コンロを温めていたところ、通行人の自転車
が容器をひっかけたが、固定していなかったためにゴム管が外れ、ガスが
漏えいしコンロの火が引火した。
https://www.kan-eki.jp/pdf/kensyukai/20151113-4.pdf
事例④|ガス機器放置
ガスコンロでカレーを温めていたところ 調理機器が立ち消えし、漏れたガスに引火。従業員は車両から離れた場所で配膳 していた。
https://www.kan-eki.jp/pdf/kensyukai/20151113-4.pdf
ガス検知器の設置は必須
ご紹介したキッチンカーのガス事故では、ガス検知器(警報機)が設置されていたかどうか、記載がないので分かりません。
ですが「質量販売緊急時対応講習」では、ガス検知器の取り付けが推奨されます。
ガス検知器はネット通販でも簡単に購入できる商品です。必ず取り付けておきましょう。
取り付ける場所としては下記の図を参考に、最も効果的な場所を選んで設置してください。
キッチンカーのガスボンベ設置方法と置き場所の注意点
今回ご紹介したガス事故では火傷はもちろん、キッチンカーの全焼、ほかの建物への延焼があったケースもあるくらい重大な事故に発展したものもあります。
そこで、このような事故を起こさないために必要な「ガスボンベ設置の注意点」について最後にまとめました。
①ボンベは必ず立てた状態で運搬・設置すること
②40℃以下の環境で使用すること。
③車内は高温になるため、置きっぱなしにしない(特に夏場)
④火元から2m以上ボンベを離して設置すること
⑤漏れたガスが滞留しない工夫をする(床面付近の換気)
⑥風よけを設置し、立ち消えを防ぐ
⑦ガス使用時はその場から離れない
キッチンカー開業者の急増に伴い、ガス事故も増えているようです。
取り扱いには十分注意し、「質量販売緊急時対応講習」により正しい知識を身に着けたうえで開業するようにしましょう。
また万が一事故が起これば、場合によっては賠償ということも考えなくてはいけません。
このブログではキッチンカー開業に必要な保険についても詳しく解説していますので、必ず読んで確認をお願いします。